ちょうど波のように さよならが来ました

「郷愁」という言葉がある。



大阪で生まれて大阪で育ち、数年前に長期出張で3ヶ月弱ほど福岡に滞在したことがあるだけの私には、その感情はわからない。

確かに、福岡にいた頃の私はずいぶんと心身ともに不安定だったが、それが「郷愁」だったのかと言われると違う気がする。当時の私は「大阪」という「場所」を思っていたわけではなく、ただもう無性に友人達が恋しかっただけで、逆に言えば友人達に会えるのなら別に大阪でなくても、福岡でも東京でもどこでもよかった。

それほどまでに「帰りたい」と思うその気持ちが、だから、私にはよくわからない。



決して、わからないからと言って彼の決意を否定するわけではない。いや、わからないからこそ、最終的には引き留められないだろう・・・と思っていた。そう、2004年のシーズン終了後、最初にこの話が出たときから、いつかはわからないけど、でも確実に「その日」は訪れるのだということを、私は、私達は、知っていたのではなかったか。ただ「その日」が1年でも、1日でも先に延びてくれればいいと、半ば怯えながら祈っている日々だったのではなかったか。



ひとつだけ声を大にして言いたいのは、彼は決してJ2を忌避して移籍するわけではない、ということ。前のときも、さらにその前のときも、セレッソはJ1にいたし、それでも彼は移籍を口にした。あちらのサポさんには縁起でもない話で申し訳ないが、もしこちらがJ1であちらがJ2だったとしても、やっぱり彼は移籍を望んだのだろう。そうして3度目のオフ、もう彼を引き留めきれなくなったそのときが、たまたまこちらのJ2降格とぶつかったに過ぎない。

(これは推測でしかないけど・・・もし昨年、セレッソがJ1に残留していたら、逆に彼の移籍はもっと早くに決まっていたのではないかと思う。降格したから、降格させてしまったからこそ、彼は最後の最後まで悩み続けたんじゃないだろうか。)



彼をとりまくいろいろな事情とか、彼自身の思いとか、そういうのがもう、セレサポならば誰しもわかりすぎるほどにわかってしまう。だから、彼に対して恨みつらみの感情なんてかけらほどもない。悲しいけど、ただひたすら悲しいけど、でも同時に、本当に心の底から感謝してる。それはもう、どんな言葉でも表現しきれないほどに。



しかし同時に、これは私と彼との別れの瞬間でもある。



最初の移籍騒動のときから、私はずっと心に誓っていることがあった。

「もし彼が望みどおり移籍したら、その先、私は彼の姿を決して見ない」と。

彼のいないセレッソを見ることはまだ耐えられる。2001年がそうだったのだし。だけど、よその(Jリーグの)チームの一員になってしまった彼を見ることはできない。よその(Jチームの)ユニを着た彼の姿だけは、絶対に見たくない。

だから、移籍してしまったら最後、そのチームの試合や映像だけは、絶対に見ない。幸か不幸か、今年はそういう機会は(少なくともリーグ戦の間は)ないけど、それこそセレッソと対戦するときは、私は、アウェイはおろか長居にすら行かない。そういう覚悟でいた。

パルちゃんショーだけはちょっと惜しいけどw まあ@えすぱ様が挙げてくれる動画で満足しておきますか。)

だから、私の中の「彼」の歴史は、今日で終わり。彼はどこかのチームで、それなりに元気にやっているらしいけど、でもその姿を私が見ることはない。



アキ。

今まで本当にありがとう。私はもうあなたに会うことはできないけれど、どうかいつまでもお元気で、そして1日でも長く現役生活を続けてください。矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、これは私の偽らざる本音です。






・・・というような文を、帰宅したら書こう。と思っていたのが今日の夕方まで。実はこの時点で、私はオフィのニュースはおろか、スポーツ紙の記事すら満足に読んではいませんでした。今朝起きてすぐに京ぽんでセレスレをチェックして、それで事足りたから。今日に限っては、新聞にどんな記事が書かれているかはまったく問題ではなく、残留か、移籍か、どちらに決まったのか、その1点だけを知ればよかった。そして見たくない方の結論だった、と。

おそらく、まともに記事やらオフィの発表やら読んだら仕事にならなくなるだろうと踏んで、ともかく今日は可能な限りその手のニュースを見ないように努めた。まあ、他に気になることもあったんで*1、時々セレスレだけはチェックするようにはしてたけど。これまた幸か不幸か、今週は仕事がちょっとしたヤマ場で、忙しいってほどではないにしろひとつひとつの作業に、足りない脳みそをかなり絞らされるんでw 休憩とかトイレとかそんなとき以外、余計なことは考えずにいられた。

それなのに、そこまで気を配ったのに、定時の業務時間が終わる直前、ついうっかり読んでしまった・・・オフィに掲載された、彼の言葉を。

私、西澤明訓セレッソ大阪を退団し、清水エスパルスに移籍することになりました。高校を卒業して12年、サッカーは勿論のこと、人間としても多くの成長をさせていただいたこの大阪という街、セレッソというクラブに心から感謝しています。今回の移籍に関しましては正直悩み、たくさんの方々に相談もしました。そして、地元である清水でプレーすることに決めました。セレッソでは本当に素晴らしいチームメイト、クラブ、サポーターのおかげで、たくさんの貴重な経験をさせていただきました。自分としては、8番の大きな背中を追いかけて、好き勝手にやってきただけですが・・・ 。これからは、これまでの経験をいかして、セレッソに負けないように全力でやっていきたいと思っています。本当にありがとうございました。 AKI 20


・・・いやあ、やばかったねw つーか、トイレ駆け込んでちょっと泣いたものww 今日だけは「冬でよかった」と思った・・・目が潤んでても「ああ、風邪気味なんだな」って思ってもらえる。

で、これはもう完全に仕事にならんと踏んで、今日は定時でさっさと上がってきました。帰宅して、ごはん食べて、だいぶ気持ちも落ち着いて、ようやくいまこれを書いている次第。



上にも書きましたが、もうずっと覚悟はしてました。覚悟は。だけど、こうしてアキの思いを読んで、しかもそれが「サポに直接伝えたいから」ということで、マスコミの人達へのコメントという形ではなく、アキ自身が考えに考え抜いた言葉、そのひとつひとつが私の涙腺をあっけなく緩めた。

アキが大阪で過ごした時間は、決して幸福なものばかりではなかっただろうと思う。それでも、アキは大阪を、セレッソというチームを最後の最後まで愛してくれた。そのことがわからないサポなんていない。こんな情けないチームに(J2降格したって意味ではなく)なってしまって、誰に見捨てられても仕方がないセレッソを、それでも彼は愛してくれている。その事実がまた、私を悲しませ、同時に勇気付ける。

アキは、セレッソが本当に好きなんだ。ただ不幸なことに、それが彼の愛する故郷のチームではなかった。そういうことなんだろう。



ごめんなさい、「移籍したアキにはもう会わない」なんて、そんな誓いはいますぐ撤回。あなたがこれからもセレッソを思ってくれるなら、私もあなたから目を逸らさない。違うユニを着たあなたのことも、とても痛いけど、苦しいけど、でもちゃんと見守るよ。いつか、来年ではないかもしれないけど、いずれもう一度セレッソがJ1に戻れたら、長居にも日本平にも行くから。

だからどうか、その日までは現役でいてください。ボロボロな身体で、苦しいことが多いかもしれないけど、私達が胸を張って会いに行けるその日まで、どうかそこに「しがみついて」いてください。



ところで、アキの文章からわかることがもうひとつ。

セレッソでは本当に素晴らしいチームメイト、クラブ、サポーターのおかげで、たくさんの貴重な経験をさせていただきました。自分としては、8番の大きな背中を追いかけて、好き勝手にやってきただけですが・・・ 。


たぶんそうだろうとは思っていたけど、アキにとってやはりセレッソ≒モリシで、だからこそ今回のこともギリギリまで悩み続けたんだろうな。(「大きな背中」ってとこは、彼なりの最後のジョークのつもりかもしれないけどw)「尊敬する選手:森島寛晃」ってのは伊達じゃなかった。

ひとつだけ心配なことは・・・アキのこの決意は、アキ自身の口で、直接モリシに伝えたんだよね?間違っても他人任せで伝えてもらったなんてことはないよね?本当なら16日に結論が出るはずが1日延びたのは「アキの要望で」ってことだったから、その「空白の1日」は、誰よりも先にモリシに伝えるための時間だったんだよね?そこさえちゃんとしててもらえれば、もう言うことはないです。



それからそれから、最後にひとつだけお願い。あと1回、いや正確には2回、2試合だけ、セレッソのユニを着て長居に来てください。

それがいつのことになるかはわからない。どちらも可能な限り遠い未来であることが望ましいけど、でもいつかは絶対に来る「その日」。そのときだけは、もう一度「セレッソのアキ」に戻ってください。できれば背番号は「9」がいいな(古橋には申し訳ないなと思いつつ)。



後はもう、本当に見守ることしかできないので。

清水サポの皆さん、私達がこんなにも愛した彼を送り出します。どうか温かく迎えてください。長いこと私達が無理を強いてきたせいで、今は満身創痍の状態ではありますが、清水の温暖な天候の下で少しゆっくりと療養すれば、再び頼もしいセンターフォワードとして君臨できると思います。何より、彼自身がこんなにも愛したセレッソというチーム、そしてその象徴である唯一無二の相棒を置いてまで帰りたいと願った故郷です。どうか「帰ってきてよかった」と思わせてあげてください。

アキを、西澤明訓を、どうぞよろしくお願いいたします。



できれば、その・・・そちらでは「アキ」以外の呼び名で呼んでくれれば嬉しいな、とか思ったり思わなかったり・・・(ぼそぼそ)

*1:「気になること」の一例:千葉ちゃんの復帰。こんな日だけど、おかえり千葉ちゃん。