さよなら、英雄。

久々にテレビのニュース速報で大声あげたよ。




私がサッカーというものに真剣に興味を持つようになったその時点で、彼は既に日本代表のエースと呼ばれていた。

サッカー選手としての彼を好きか、嫌いかと聞かれれば、よくわからないのが正直なところ。何せ、私にとっての「サッカー選手」の基準はモリシなので(笑)ただ、好き嫌いは置くとしても、彼がとてもストイックなプレイヤーであるということ、心身ともに本当にタフな選手なんだということは理解しているつもりだったし、尊敬もしていた。トルシエジャパンの時代は、そんな彼とモリシ・アキが、少なくともプレーの面ではかなり相性がよかったので、ちょっと誇らしく思ったりもした。(まぁ、ふたりとの相性っていう意味では名波との方がはるかによかったんだけどね。)

ジーコジャパンになってから、いつの頃からか・・・あまりにストイックでありすぎるがゆえに、正視することが正直つらいな、と感じることが増えてきた。でもそれは「W杯予選」を戦っているがゆえにやむを得ないことで、予選を勝ち抜き、W杯出場を決めたら、少しは肩の力を抜いてくれるんじゃないかと思っていた。ところが実際には、出場を決めた後も、ますます表情は険しく、オーラは人を寄せ付けなくなっていく一方。そんなにもこの代表は彼を苦しめているのだろうか、と思っていた。しかしどうやら、私の認識は根本的なところで違っていたらしい。

彼を追い詰めていたのは、チームメイトでもなく、監督でもなく、マスコミでもなく、他ならぬ彼自身の決断だった。

おそらくこのW杯が終われば、彼は代表引退を表明するだろう。それは私だけでなく、多くの人が薄々勘付いていたことと思う。そして、そんな彼を引き止める声が数多存在するということも。W杯終了から、最初の公式戦となるアジアカップ予選のイエメン戦までのちょうど1ヶ月が、最大の綱引きになるのだろう、と思っていた。

ところが、彼が自ら下した決断は「現役引退」だった。




ちょっと待ってよ。いくらなんでも現役引退とはまだ早すぎるだろう、同級生のアキも松田も楢崎もバリバリの現役でチームの中核だぞ、怪我をして動けないってんならまだしも、あの見るからに灼熱そうな午後3時のドイツのピッチであんなに動けてた人間がいきなり現役引退ってなんだよ、冗談はよしてくれよ。

って、思ったんですよね、最初。

ところが、ともかく情報が欲しくてあちこちのチャンネルをザッピングしていて、ようやく報道ステーション*1で引退宣言の全文を聞いたんですね。(公式サイトにはまったくつながらないんで。)

あぁ、これは駄目だ。引き止めることはできないんだ。そう思った。

「半年前から引退を決めていた」ってあたりから、ブラジル戦に至るまでの彼の言葉と、そのブラジル戦後、彼が、あの「どんなことがあっても自分の美学を貫き通す」ことに命をかけていたあの男が、ピッチに倒れ込み、涙を流していたあの姿が、つながってしまった。そういうことだったのかと、理解できてしまった。

彼ほどの男が、おそらくはたったひとりで、重大な決断を下した。もう、誰にも彼を止められるはずがない。

たぶん彼は、いったんサッカーの表舞台から「完全に」姿を隠してしまうのではないかと思う。だけどそれは決してサッカーを捨てるわけではなく、別の角度から、ある意味「ワールドカップ」という華やかな舞台よりもはるかにサッカーの本質に近いところから、サッカーに関わっていくのかもしれないな。なんとなく、そんなことを思った。




彼を好きな人間はもちろんのこと、そうでない人間にとってさえも、ただひとつ、揺るぎない事実。

彼こそは間違いなく、日本サッカー界における「英雄」だった。

さようなら、中田英寿

*1:余談ですが、この番組がスタートして以来、これほど真剣に古館の言葉を聞いたことはない。(笑)