ひとつの時代が終わった

「In Motion」を巡る、佐野元春とEPIC(ていうかソニー)との対立問題については理由あって静観していましたが、今日ついに重大な情報がリリースされました。

佐野元春は5月19日発売のシングル「月夜を往け」のリリースを最後にエピックレコードジャパンから独立し、新レーベルを設立、4年半ぶりとなる新作オリジナル・アルバムをその新レーベルからリリースすると発表した。

EPIC(というかソニー)は重大過ぎるミスを犯したと思う。おりたさん経由で見に行った音楽配信メモ4/23分には「EPICの申し子とも言える元春がEPICと訣別し、独立レーベルを立ち上げるに至った。」とあるけど、あえて言わせてもらえば逆で、佐野元春の存在こそEPICの魂、EPICが他のレーベルと一線を画していたのは、まさに佐野元春のようなアーティストが、レーベルの都合に振り回されることなく自らのペースを保って音楽活動を続けていられるという部分に象徴されていたわけです。その特異性は、他会社のレーベルと比べるよりもむしろ、同じソニー内のもうひとつのレーベル、旧CBSソニー(現在はソニーレコードでいいんだっけ?)と比較した時により際だった。大江千里渡辺美里TM NETWORK岡村靖幸川本真琴など、他のどこにもいないアーティストを次々に輩出し得たのは、EPICがいかに他のレーベルと比べてアーティストに音楽制作面での自由を与えていたかを物語る。それは間違いなく佐野元春が切りひらいた道。

その魂を自ら手放してしまった今、EPICはその他大勢のレーベルと何ら区別がなくなってしまった。上であげたアーティストの多くが移籍してしまい、ついにはEPICの象徴だった佐野元春までも失った今、EPICは何によって自らのレーベルの個性を主張する気なのでしょう。それとも、大手レーベルはもう個性を持つ時代ではなくなったのでしょうか?

どのアルバムの時の話だったか失念してしまったのですが、元春があるアルバムを制作した時のこと。EPIC内の会議で、「アルバムのセールスを伸ばすため、もっとアーティスト(元春)の露出を増やしたい」という意見が出ました*1。その時、ひとりのスタッフがすくっと立ち上がってこう言ったそうです。

「こんなに素晴らしいアルバムをつくってきたアーティストに対して、これ以上何を求めるというんだ」

この言葉を聞いた出席者一同、ウーンとうなって黙り込んでしまったそうです。

そんなレーベルだったEPICは、もうどこにも存在しないのですね。あの時代のEPICを愛してきた者にとって、これほど淋しい話はありませんが・・・

*1:今の音楽シーンしか知らない人には信じがたいことでしょうが、80年代には音楽番組にはほとんど出演せず、アルバムとライブだけで人気を得るアーティストが少なからずいました。